あともう一歩日記

日々のことを綴ってます。

春にして君を離れ

大好きな本である。

アガサ・クリスティが別名義で書いた小説。家庭を持つひとりの女性の述懐でドラマは進む。

初読は20代の時。その時は、「なんだかんだでこの主人は主人公の女性と一緒に暮らしていくことにしたんだからいいんじゃない」と思った。

で、最近ネットでの感想を読むことが多いのだが、「怖い小説」と言う人が多い。何故だか考えてみた。

わたし達は普段家族と暮らしている時に、信頼によって結ばれていると思っている。愚痴があっても、信頼(「心理的安全性」とも言えるだろう)がなくなっていると思っている人は少ない。

というか、信頼がなくなっている時はたいていそれぞれになんと無く暗黙の了解がある(だから「仮面夫婦」という言葉があるのだ)。

薄々、家族と上手くいっていないと思う人、居場所がないと思う人はいい。

この小説の主人公はそうではない。

彼女は、「わたしは家族のみんなから愛されている」「わたしは家族のみんなを導いてきた」と思っている。ところが実は家族のみんなから疎んじられているのだ。

これは確かに恐ろしい。

後ろを振り返ったら実は崖っぷちでしたみたいなものだ。

そして、この小説の凄いところは「自分もそうなのではないか?」と思わせるところだ。

いちばん信頼したい家族から実は愛想をつかされている……。

これほど恐ろしいことがあるだろうか。

実は家庭だけではなく、職場や友人関係でもそういうことはありますね。

(個人的にはこういう主人公のような性格でも、それが自分自身納得・肯定しているのであれば問題なく生きていけると思っています。気がついてしまうのが恐ろしい)

それにしても、主人や家族が自分を冷ややかな目で見ているのに気がつくようになったのに、元の自分に戻れるものだろうか。主人公は、日々恐れの中でおののいて生きていかなければならないのではないだろうか。